2016年2月4日木曜日

『エデンの園』の謎

『エデンの園』という絵画が気になっている。描いたのはヒュー・ゴールドウィン・リヴィエール(1869〜1956)というイギリスの画家である。オリジナルの絵は見ていないけど、複製を見た。

先日、徳島に旅行に行った際、大塚国際美術館という大塚製薬が開設した美術館を訪れた。「所蔵作品は全て偽物。そして日本一入館料が高い」という文言を聞かされたために、東武ワールドスクエアのような珍スポットなのかと予想していたら、これは徳島に行く人には勧めたくなるスポットである。
古代オリエント時代の壁画からジャクソン・ポロックに至るまで、一度は見たことのある有名な絵画が原寸大の陶板で再現されているのである。

システィーナ礼拝堂やオランジュリーの『睡蓮』(これは何故か屋外にあったが)まで、その大きさのまま再現されているというと、この大塚国際美術館のスケールの大きさが伝わるだろう。

午後五時が閉館で、三時から時代順に観覧し始めたが、バロック時代でもう時間は残っていなかった。観覧するのに一日かかるので早めに行かないといけない。

だから近代絵画の辺りは皆揃って駆け足である。この辺りのコーナーは、知っている画家、何度も見たことのある絵、何となく記憶に残っている絵、流れるように目に入れていく。
一瞬、見たことのない絵に目を奪われる。立ち止まる。題を見ると『エデンの園』とあった。何故、こんな宗教的な題名なのかと思った。
こんな絵だからである。
(BBCのサイトから引用したが、大塚美術館で見た時はもっと明るかったように思う)

美術館を出てグーグル先生に『エデンの園』や作者の「ヒュー・ゴールドウィン・リヴィエール」のことを聞いてみる。検索した結果は、「大塚美術館で見た絵」というものばかりであった。狐につままれた思いがした。
大塚美術館で見ることのできる、ほとんどの複製絵画についてネットで検索しても、まず「大塚美術館で見た」なんて出てこないはずだ。

リヴィエールについてはWikipediaで英語版の数行の記事があるだけで、経歴も書かれていない。Briton Riviereという画家の息子だと分かった。このブライトン・リヴィエールの方が画家として高名であるようだ。息子より情報も出てくるし、Wikipediaでは英語の他に 7つの言語で記事がある。

上のイメージの引用もWikipediaの関連リンクからBBCのサイトへ飛んで拾ったのだけれど、そこで見られるヒュー・ゴールドウィン・リヴィエールの69の作品のうち、3つを除いてすべてが肖像画である。モデルは聖職者、科学者、代議士、軍人、教育家、上流階級の夫人など様々であり、つまり彼は金持ち相手に肖像画を描くのが生業だったのだろう。

肖像画以外の3作品は1つは 『A Libation to Olympus(オリンポスへの献酒)』で、これは題名通りの神話的な絵画である。アカデミーっぽい学生の習作といった感じだ。

もう一つは『The Lonely Life』という絵。なんともアイロニカルな題名で、描かれている人物はヴィクトリア女王のようにも見えるし諷刺画かもしれない。調べると父のブライトン・リヴィエールの作品の模写らしい。
そして『エデンの園』である。こうやって調べてみると『エデンの園』は彼の作品の中でも1つだけ浮いている絵だ。唯一、表現欲求が発露しているように思う。
男女二人で「エデンの園」なんて、どうしても何かの寓意を勘ぐってしまう。でも何の不穏さも感じられないし、見えない男性の表情に怖さも感じられない。題名は謎めいて興味をそそる。

絵についてもう少し見てみよう。背景にもうっすらと人が見える。後ろのベンチは端で見切れている。この情景の切り取り方、雨上がりで濡れた道、フレームの右から左の手前側に抜けていくであろう二人の歩く姿、この絵はどうにも映画的に見える。
『エデンの園』は1901年のものとあった。これが描かれる前に既にロンドンでは映画が見られたはずである。リヴィエールが映画に触発されたかどうかは知らない。巡る勝手な想像。
「美の巨人たち」でリヴィエールが採り上げられることはないだろう。でも、どこかで誰かが語っているのなら聞いてみたいものだ。

大塚美術館の作品リストによると『エデンの園』の所蔵先はギルドホール・アート・ギャラリーというロンドンの美術館である。リストをざっと見ても同じ所蔵先からの作品はない。同じロンドンのナショナル・ギャラリーやテート・ギャラリーの複製作品は当然に多い。ますます謎が膨らんできた。
なぜ有名とはいえないこの作品を、同じ美術館にあるからついでにというわけでもなく、わざわざ複製して展示しようとなったのかしら。また行く機会があれば聞いてみようと思う。

複製作品だからアウラは宿らないのだろうけれど、『エデンの園』はあるいは大塚美術館の陶板複製の方がオリジナルよりも今は多くの人の目に入っているのかもしれないし、語られているのかもしれない。アウラの再獲得といえるかも。いつかオリジナルも見てみたい。

実は一つ珍しい絵を複製して紛れ込まそうという大塚美術館の遊び心だったらおもしろい。いや、そんなわけは。

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2 件のコメント:

  1. 白亜の恐竜2017年9月25日 14:40

    こにちは、先日この美術館に行き、この絵に引き込まれてネット検索して辿り着きました。
    参考になりました。
    この絵は、美術館で人気ベスト10に入っていました。
    この女性の表情が写真のように思えて、足を止めたのです。
    素晴らしい一枚に巡り会った感動を今でも覚えています。

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  2. 新型コロナウイルスの二次拡大が懸念されるなか、2020年7月下旬、大塚国際美術館に初めて行きました。そんななか『エデンの園』を見て、素晴らしい絵、幸福感が伝わる、まさに感動の一枚、良い絵に巡り会えた感動が今もあります。
    ただ、タイトルの「エデンの園」については、謎めいてずーっと気になっていました。
    インターネットで調べてみると、直ぐこのサイトにたどり着き、同じように疑問をもつのは私だけではないと安心しました。
    是非にでも、この絵の逸話、そして大塚国際美術館からもこの絵を複製するに至った経緯をお聞きした方がいたら教えていただきたいです。

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