ウォーキング・デッドの「なんでもない話」で一番好きだったエピソードはシーズン5の13話だ。
放浪を続けてきた主人公リック一行が、ようやく安全で豊かな共同体アレクサンドリアに迎え入れられて新生活を始める回である。
しかし実はこの共同体は平和ボケしていて、終末後の世界の過酷さを知らない。
肉親を失う経験をしており、身を守るために殺人もしてきたリック達とアレクサンドリアの住民との意識の隔たりが描かれ、一行は共同体の甘さに同化して身を滅ぼすことを恐れる。
リックのグループは苛酷な体験を経て、ほぼ全員が鉄の絆で結びついている擬似的な家族である。
ただしカップルを除けば、リックだけが子供二人を失っておらず、グループ内で唯一肉親のいる人間である。
アレクサンドリアに迎え入れられるまでに他の仲間の肉親は全て物語から退場させられており、対照的にこの13話では家族と能天気に暮らすアレクサンドリアの住民達が描写される中でリックの立ち位置は絶妙になる。
住民の美人妻をパーティー中に誘惑するという、かつて妻を親友に盗られてその親友を殺した経験がある人間とは思えぬ狂気の素振りを見せた翌朝、リックがパトロール中にBeeGeesの "Spicks and Specks"がBGMで流れる。
シリーズを通して、扇情的な音楽やアガるBGMはたまにあった。
しかしここでは、いきなりのポップ・ソングが感情移入を遮断して、劇中との距離が一気に広がる。リックはここで全てから孤立するように見える。 "Spicks and Specks"も曲調に反して「太陽も友達も女の子もどこかに行ってしまった」なんて歌詞であるし。
街を守る壁を挟んで、リックの裏側に一体のウォーカーがいるのを映す真上からのショットがある。
ここで想起するのが”Spicks and Specks"の裏、つまりB面の"I Am The World"である。
歌詞は真反対で、”Spicks and Specks"の歌い出しが"Where is the sun〜"に対して"I Am The World"は" I am the sun〜"である。
つまり「みんなどっか行っちゃって今は一人」と「(求められれば)何にでもなるよ」という表裏が一体となった、リックの状態を俯瞰できるこのシークエンスは印象に残るよね、と。
実際にこの後の展開で、リックの暴走を知っていると13話はもう一度見返しても面白いんじゃないかなと思う。
俺もこの音楽がポップなのに歌詞の内容が、違くて違和感を覚え、その後の映像が、壁を隔ててのウォーカーとリック。この絶妙な違和感をこの映像に音楽と共に語る演出に感動した。
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